これまでに出会った不思議な人たちーその3「鶴のひと声」

うどん

今日の記事は、私が長年の社会人生活のなかで出会った不思議な人のひとりについて書いています。

●鶴のひと声ーワンマン社長のひと声ですべてがおじゃんに。

 

数年前、取引先の依頼で孫請けのような下請け案件を受けたことがあります。

弊社では年々、下請け業務を意図的に減らしていたのですが、長年の友人を通して紹介を受けて取引先となった企業からの別件での依頼だったので、どちらの顔も立てたいと思い、その案件をお受けしました。

が。

いや、すごかった。笑

こんな扱いを受けたのは正直、初めてです。

それまでも他のご依頼主と、翻訳内容について意見の違いが出ることもありましたが、それは意見の違いということで、こちらの案を最終的には受け入れてくださるところも多かったのです。

中には東証上場企業もあります。

上場企業と取引、というと響きはいいですが、非上場よりも上場企業のほうが中で関わる人間が多くなり、いろんな人間を通すぶん、さまざまな意見が出てきたり、やりとりに時間がかかることもあります。

ただそれでも、案件が決別する、ということは皆無でした。

さて。

その企業(仮にA社としておきます)の世界向けパンフレットを一括して請け負うということで、翻訳部分が弊社に依頼されました。最後にA社の創業者である社長に通したときにおかしくなりました。

翻訳が気に入らない、それなら印刷もすべて含めて、この案件を取りやめてしまえ。

そう言いだしたそうなのです。

それを聴いて、この社長が上から目線でものを言う人間であることが分かりました。

自分が気に入らないから、鶴のひと声で取り消させることができる、と思っているということです。

ここまでの下請け業者の労力や工賃など、すべて無視して。

しかも、気に入らないのは翻訳でありながら、そのあとの工程であるDTPや印刷もすべてやめさせるという強権

(けっきょく、元原稿と違っているものは翻訳だけだからです。印刷用のデザインは和文原稿とまったく同じなので、DTPは英語の文章を和文の個所に差し替えたということです)

話し合いや、内容について確認する作業や時間も与えることなく。

自転車駐禁(渋谷区)

なにが気に入らないのか。

依頼主が先方に尋ねてくれたところ、つぎのようなことでした。

1)同じ単語を何度も使っている。

2)それぞれの項目が違う人間によって書かれたようで一貫性がない。

 

これを聴いて私が思ったのは、

1)原文において、

 

「展開」「所存です」「してまいります」

「一丸となって」「提案型の営業」

「お客様の立場に立った」

「ものづくり」

「わが社の強みである技術力」

 

という言葉が、何度も何度も繰り返し、出てくるからにほかなりません。

これらは企業人が好んで多用する日本語の代表でしょう。

 

2)「あったりまえじゃん!!元原稿をつくったおたくたちが各項目、部署がまったく違う何人もの人間で書いてんだからさ。笑 こっちで意訳したり、完全に違うものをライティングしないかぎり、各項目の一貫性は得られないよ。あほちゃうか」

私は心の中でそうケンカを売りました。

最初に原稿として送られてきたものは、和文と、それを無料の機械翻訳で翻訳したことがプロには一目でわかる「下訳」(もどき)の2つです。

「なぜこういうものを先方で作ったのかは分からないのですが」と依頼主は言っていましたが、「和文で書かれた原稿だけから英訳させるよりもグーグル翻訳でとりあえず英訳したものを手直しさせるほうが割安に上がるだろう」という意図がA社側にあったことはみえみえです。

英単語ではない言葉がさしはさまれていたり(But nagara⇒しかしながら) SVO、SVOC等の文法がとにかくめちゃくちゃで、文章になっていなかったり。

 

 *余談ですが、 無料のグーグル翻訳は まだまだ発展途上ですよ。 先日もためしに 「valedictorian」と入力したら 和訳がまったく出てこない。 「総代」と入力して差し上げました。

新宿のビル群

こういうことも、弊社が下請け業務から「足を洗う」ことを決めた要因のひとつです。下請けであるがゆえに、依頼主側はどこかこちらを見くびっているようなところがある。

 

「原文もあまりいい日本語とはいえないので大変だとは思いますが、いまいちど修正をお願いします。先方もまわりが社長の機嫌をなんとかとりなしてくれて先に進めようということになりましたので」と元請けである依頼主に言っていただいたので、心の中ではA社の社長に対してむかっ腹をかかえつつ、作業を進めることにしました。

無料のグーグル翻訳を使って「下訳」として平気で送りつけといてさ、とA社の無神経さにたいして毒づきながら。

1)については結局、かなりの意訳を含めて、違う言葉に置き換えました。

2)もそうとう私のオリジナルライティングとなりましたが、一貫性を持たせるためにはしかたありません。内容を損なわない程度に終始、文体を統一させました。

まえにも一社、「いろんな言葉を使って翻訳してほしい。どこどこ企業のサイトのように」というところがありました。

ここは会社内部で統一された会社仕様の辞書である英文コーパスもなく、それゆえ弊社のほうで単語や言い回しなどを考えざるをえなかったのですが、話をきいていくとどうも、「意訳」まったく完全に違う英文でもいい、ということになるのでした。

でもこれは残念ながら、弊社で依頼を受けた翻訳の範疇を超えています。

社内の社長なりマネジメント層直属の経営管理室等でいちど、しっかりと言葉の統一をしなくてはなりません。

企業の顔となるIRサイトの翻訳だったからです。

そこが引き合いに出した世界的な超大手である「どこどこ企業」はそのようにしています。

ちなみに、どちらの企業も東証一部上場企業です。

このように勘違いされるご担当者様は意外におられます。

そら

●ワンマン社長を反面教師に。どんな学びがあるか?

会社でまわりからかしずかれていると、それが社会を映す鏡であると勘違いしてふんぞり返ったり、横柄になったりする人間はたくさんいます。

とくに、自分がその会社の創業者であればなおさらかもしれません。

そうはいっても、この社長のような態度では仕事を一緒にしてくれる取引先や下請けがいなくなってしまいます。

現に私自身は、A社との取引(下請け)は金輪際お断りしようと決めています。

下請けといえども、その企業の内部だけでは手に負えないから外部に依頼しているわけです。外部企業ともうまくやっていこうという姿勢が必要です。

転んでもただではおきないのが私です。

次のようなことを考えてみました。

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1)仕事をしているのだから、たとえ気に入らなくともまずは仕事として冷静に対処できる人間が、下請け(つまり、うち)からも尊敬されてひきつづき仕事を一緒にさせていただきたいと思ってもらえる。

2)下請けであっても孫請けであっても、対等である。

とくに、相手に高い専門性があれば。

これは、人に対してもいえること。

相手が10代20代であろうとも、自分にはない高い専門性を有した職業人であれば、プロとして対等であることを知る。

3)自分の性格をよく知ること。

「こんなとことは取引やめちまえ」と自分が言う可能性があると思えるなら、

すべてを自社内でしょい込む覚悟を決める。

腹ぐくですな。べいびぃ。