青山
今日の記事では、母校の青学から単位をもって米国オレゴン大学へ編入学して卒業し、15年以上に渡って「サステナビリティ・ESG・気候変動」などに特化した専門翻訳会社を経営しながら再び青学(大学院)へ戻ってMBA(修士号)を取得した私・小山ケイが、母校・青山学院の「青山ビジネススクール」について書いています。
前回まで、下の記事を書きました。
●青山ビジネススクールでアナリスト業務を疑似体験する
今夏「AOYAMA VISION 大学ACTIONサイト」をオープンしました。
青山学院大学は、青山学院のビジョン「AOYAMA VISION パワーアップ宣言」の一環として、「世界のAGU」に向けた10のアクションを策定いたしました。
詳細は大学公式ウェブサイトをご覧ください。https://t.co/zgi0Bub9rX pic.twitter.com/ylbbW8w89n— 青山学院大学 (@AoyamaGakuinU) 2018年9月22日
いまはなくなってしまいましたが、私がABSの学生だったころ、証券アナリストの仕事を模擬体験するという講座がありました。
いわゆる「500番台」と呼ばれる体験学習型コースグループのうちのひとつで、1週間のうちに2コマ、計3時間連続して1年間、受講します。
長丁場ながら、学生にはとても人気のあるコースのひとつでした。このクラスは私が最高におもしろかったと思えるABSのいくつかの授業のなかでも1,2番に興味深く、実りの多い授業でした。
アナリストの仕事は、定量分析と定性分析から構成されています。授業ではその定量分析の方法をさまざまな角度から学んだのちに、実際に分析する企業を選んでアナリストレポートを最終的に仕上げるというところが到達地点でした。
先生方が現役のトップアナリスト(かつ、人間的な魅力を備えている)ということもあり、授業を受講することで得られたものはたくさんあるのですが、おおまかなものとしては、
●BSPL/CFを読み込む
●企業の業績予想を立てる
●「過去」を定量・定性的に分析する
●マクロ経済からミクロを見る
ということだと思います。(ちなみに、ABSの教授・講師陣はその半数以上が、実業界・実務経験者です)
ただし、ここまでは他校、他授業でも勉強可能なことです。そのコースを特徴づけていたのは、トップアナリストが使っている(それとも、「これから使う予定の」、だったかも・・・)、とにかく最新のソフトを某証券会社から提供されてイントラネットで使えるというしろもの。
うちの学年の予算をすべてここにつぎ込んだんじゃないか、なんて先生方は笑ってましたが、金融投資(投機)にはほとんど興味のない私でも、「あ、これはおもしろい」と思ったものです。
上場企業の過去のBSPL/CFを一瞬のうちに検索したり、ニュース発表されたもの、ROEやPERのような、定性分析、定量分析、どちらにも利用できる情報がリアルタイムで載ってきます。
それを使えば、本当にプロ並みのアナリストレポートを書くことができるだろう、とさえ先生方はおっしゃり、これを使って投資家むけにアナリストレポートを提供する会社を本当につくっちゃおうか、なんて冗談交じりでみなで話していたくらいです。
●アナリストレポートは「読み物」
私がABSでこのクラスを取って分かったのは、アナリストレポートもひとつの読み物である、ということでした。本屋に平積みされている小説や実用書、漫画となんら変わらない。
どれほど巨額のお金が動こうとも、それを読んでくれているのは、人です。
投資家がそのアナリストレポートをPepperみたいなAIロボットに打ち込んで、ポートフォリオをどうするかPepper2号にすべて任せる、なんて時代はまだ到来していませんので(笑)、アナリストレポートを読む投資家は、ご自身の判断力で売買(ホールドを含めて)を決めているはずです。
IBM Watsonの臨床試験などを見ていると、株式投資をAIが判断するのも時間の問題という気もしますが、「景気」と「気」がつくように、経済は不確定要素である人間の気分、気持ちで大きく左右されるということも無視してはならない。
たしかに、クラス終了時に「最優秀賞」を受賞した学生3名は、定量分析がとにかく正確で、一人は理系の博士号をすでに持っていたうえ、一人は証券アナリスト試験にも合格しているという理系の頭を持った秀才ばかりでした.。
当たり前っちゃぁ当たり前ですが、「私が良い、と押すのだからこの銘柄、良いです」
と相手の情に訴えるだけでは、投資家を納得させることはできません。それはなにも、アナリストレポートなどという特殊なものばかりじゃないですよね。
たとえば化粧品の広告。
「うち(弊社)が良い、っていうんだから買ってください!」って連呼されたって、いまの日本女性は買いませんよ。
どんな科学技術(サイエンス)を使った化粧品か、その研究内容と実績、即効性や効果の数値、販売数という「数字」がないと、まず、だめでしょう。
とくに知名度のないスタートアップであればなおさら。自分の肌に直につけるものですし。
●定性分析の重要性ー担当者はEQを高めよう。
ですが、私が言いたいことはそこじゃない。
定量分析の精度が高いだけで、いまの時代、国内外の投資家を納得させるアナリストレポートは書けない、さらにいえば、数字に(マニアックなぐらいに)強い、ということだけではイノベーションは起きないんだ、ということを言いたいのです。
私も最終アナリストレポートは自分がいちエンドユーザーとして愛用している分野の企業数社を取り上げて、自身が不得意な定量分析を補うように、自分の体験と実感をたくさん盛り込んだ現実味のあるアナリストレポートを仕上げました。
じっさいに、それらの商品がどんな具合なのか、ほぼすべて記しました。分かったような専門用語は極力排除して。(だって、自分がその意味をよく理解していないから)
そして、これは読み物である、なせならば、先生、という読者がいるからである。
であれば、読んでくれる人(先生)をうならせるぐらい楽しいもの(知的好奇心をくすぐりつつ)でなければならない、感情を呼び起こすようなものでなければならない、と自分に言い聞かせて入魂しました。
そのおかげでしょうか、授業が終わってふたを開けてみると、私自身の成績は「AA(90点~)」でした。
もちろん、授業中は毎回かならず、発言していましたが(先生がしっかり、各自の発言数を手書きで記録していましたし)。
クラスでは他のクラスメートのアナリストレポートを読んで、全員分の評価を全員が行う、という課題を出されたのですが、そのときに他のクラスメートのアナリストレポートを読んでおもしろいなぁ、と私が思ったものはやっぱり、書いた本人が自分で取り上げた企業や業界に対して好奇心や興味をむちゃくちゃ持っていて、血の通った、生の声で評価している定性分析が書かれたものでした。
定量分析が整っていることはたしかに、プロのアナリストには必要な要素でしょうが、「読み物」としてはお行儀が良すぎておもしろくないのです。
書いた人間の感情がこっちまで届いてこないから。血が通ってないから。
どうですか?
企業案内書とか、アニュアルレポートとか、統合報告書とか、なんとか書と呼ばれる企業関係の報告書はいろんなものがありますが、読んでます?さいごまで。
300ページ以上にわたって、つらつらとこまかい数字がいーっぱい並んでる報告書。どう考えても、専門家かマニアックな人にしか向けて書かれていないような内容。
「私たちはこれだけ頭イイんです」とでもいいたげな、難しい漢語(一般中国人でも知らなさそうな)や漢字、カタカナ言葉がわんさか掲載されていて。
一般消費者が自分の仕事や家事をしながら、なおかつ300ページ以上もの数字をすべて理解して完読するにはいったいどれぐらいの労力と時間、知力が必要か。
人を動かすのは、理性や知識ではない。感情です。
その、なんとか書が一般消費者にも広く読んでもらいたい、と思って製作されているのであれば、アプローチ方法はさらに考え直したほうがいい。
げんに私もまわりでも、企業のなんとか書について議論しているのは、私のようにMBAを取得していたり、企業のIR担当者(つまり、会社員)、ご自身が実際に巨額の投資をそれらの企業にしているかたや、学問としてそれらに対して高度な研究をしている人に限られます。
スマホで日々、LINEやSNSやったりゲームやったり電子漫画読んだり、なんて人はまったく入ってない。それらの製作会社の人も入ってない。
起業家でも、このなんとか書をじっくり読んでます、なんて人にはお目にかかったことがない。
だっておもしろくないから。
一般消費者にとって、マニアックな数字ばかりがならんだ印刷物は、蚊帳の外に置かれている気がするから。
「感想を書いちゃだめだよ」
最優秀賞を取ったクラスメートの一人から私は自分の書いたものについてそう助言されました。(あ、もちろん、友人としての暖かい助言です)
理系で研究職のかれはそれまでの人生において、文学や映画、音楽にほとんど触れたことがないのだそうです。小さいときからそれ一色だった私とは、対局にいるような男です。
数字信望者なのでしょうか。
他人の口コミやレビュに共感したり「へぇ、そうなんだ」と新しい発見に気づいたり面白さを感じながら購買の参考にしている人たちがたくさんいる、ということを知らないのでしょう。
感想や体験談は貴重な、かつ信頼性の高いベンチマークとなりえる、というのが、若者をはじめとする世間の大勢の人たちとこれまで話してきた私の実感です。
●これからのMBAコース(ビジネススクール)に求められるもの
持論ですが、もしこれからの時代MBAを取りに行く、というかたには、定量分析の能力を高めることばかりではなく、定性分析や「人間」というものについての深い理解力も必要だと思っています。
それがinnovativeかつoriginality あふれるご自身の武器になるはずです。そしてそれは、新しい何かを相手に与える可能性もある。
それこそが、これからのMBAコースに求められていること、ともいえるかもしれない。
AIをはじめとするテクノロジーがますます発展する世の中で逆行しているように聞こえるかもしれません。でも、テクノロジーを使うのは人間です。機械じゃない。
ゲームやったりSNSやったり映画みたり漫画読んだりして「あ、これおもしろい」という感情を抱く、人間です。
AppleやGoogleをつくった人たちみたいな発想をする人間を日本から輩出したい、と思うのなら(思っている人がいるのかどうかわかりませんが)、数値の分析(定量分析)だけではなく、← ようするにクウォンツ系。いっけん無駄だとおもえる要素にも子どものような好奇心と興味を持って、無心であたる必要があります。
自分の直感 (intuition) の源である潜在意識からの呼びかけに従いながら。
そう、それはつまり、“Connect dots” なのです。Steve Jobsが言ったように。
無駄と思えることも、長い年月をかけて振り返ると、しっかりつながっているものです。「dots」がvarietyに富んでいればいるほど、大きく豊かなうねりが絡まった、まるでDNAのような螺旋を描いたcreativeかつuniqueなdotsとなって。
Stay hungry, stay foolish.
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“MBA取得のために母校青学の青山ビジネススクール「ABS (Aoyama Business School)」を選んだこと(4)” への4件の返信
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