今日の記事では、15年以上に渡る「サステナビリティ専門翻訳会社」を経営してきた私が考える、「サステナビリティ報告書や統合報告書の文言(日本企業)」について書いています。
<もくじ>
●サステナビリティ報告書や統合報告書の文言について。読み手の視点。
●英語の翻訳者の立場から。英訳者の視点。
このブログ「小山ケイ:Feel this precious moment」はいくつかのカテゴリーに分かれています。今日の記事は「Sustainability(持続可能性/サステナビリティ)」のカテゴリーで書きました。同じカテゴリーの過去記事は下からご覧になれます。
●サステナビリティ報告書や統合報告書の文言について。読み手の視点から。
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15年以上にわたって、日本企業と海外企業の報告書類を見てまいりました。
いまや多くの企業が「統合報告書」を発行していますが、その前身も前身である「環境報告書」の時代から私は仕事でその流れを見てきたことになります。
1) アニュアルレポート(AR)
2) 環境報告書
3) 環境CSR報告書
5) CSR報告書
4) サステナビリティ報告書
5) 統合報告書
フリーランスの翻訳者として仕事をしていたときから毎年、各企業に環境報告書とアニュアルレポートの送付を依頼したものです。
あまりに大量に届くので置き場所に困った。そんなこともありました。
勉強会にもたくさん出席しております。
そして実際に制作している印刷会社やデザイナー、ライターたちとも仕事をしたり、意見交換したりもしてきました。
いまや、報告書類は監査法人でも作成のための事業が提供されています。
プレーヤーが本当に多くなりましたね。笑
今日は長年にわたって「報告書」の遍歴をみてきた私が思うことや経験したことなどを記していきたいと思います。
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フリーランサーの翻訳者のころから私は企業の報告書にはかかわってきました。
「GRI (Global Research Initiative)」なんていう、報告書作成のための指標が何百ページにもわたって用意される過程も導入当初から見ています。
こうして長年見てきた私の感想は率直に申し上げて、「企業にとって報告書づくりは一筋縄ではないかない(難儀である)」ということです。
指標も作成方法も複雑化しています。そしてプレーヤーも増え続けている。
それゆえ、報告書作りがひとつの大きな、かつ企業の明暗すら分けかねない業務へと変化しているといえます。
どこかの部署の平社員が数名で片づける、なんていうレベルはとっくの昔に終わりを告げています(初期の環境報告書づくりにはありましたね)。
このブログで以前も触れたように、企業の本丸であるマネジメント層やトップ直属の部署で専門に、丁寧に、しっかりと腰を据えて作っていくことが求められているともいえます。
紙媒体やwebだけではなく動画配信もすでに行われています。これからは動画専門の企業に依頼するということも増えてくるはずです(One Mediaさんのようなエッジの利いた大手ベンチャーもしかり。すでに受注されているかも)。
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企業の報告書類がまだ、アニュアルレポートと環境報告書の二つに分かれていた時、編集者やグラフィックデザイナーたちといろいろ話し合ったことがあります。
いずれも視覚効果をなりわいとしているかたたちであるゆえ、「デザイン性」ということにはかなり言及していました。
そして「コンセプトの重要性」についても。
現在、作成する側のプレーヤーは監査法人を含めてとにかく増え続けています。
けれど、「読み手の側」のプレーヤーは本当に少ない。
だからでしょう、製作者側の理論でやたら「指標」「数値化」「テンプレート」は複雑化、数学化していますが、「読み手から見てこの報告書はどう見えるか」について真剣に取り扱われることはありません。
時代を経るごとに報告書類が機械出力のデータ資料化している。
表現物の視点は置き去りにされて。
なになに報告書であっても、企業にとってはステークホルダーとつながる「メディア」です。そのことがどうも、どんどん置き去りにされている。
まるで、日本の教育現場でクリエイティビティや表現力を磨く作業がなおざりにされているのと同じ現象です。
文言がそうです。
報告書に掲載の数字についてはとにかく微に入り細に入り決まり事が増え続けていますが、文言はキャッチを含めて同業他社、ほぼ横一列。
「この言い回しはこの企業」
「これは●●節」
なんてところまで特色を表している企業はありません。
かなり以前、米国IBMのアニュアルレポート(英文)が私のまわりで評判になったことがあります。
「去り行く社長からこれからも働き続ける社員たちへ」
そんなタイトルがついた手紙形式の文章が表紙の次ぐらいに掲載されていた。文章も人から人へ書かれているため、感情が喚起されました。英語で言う「moved」。
日本の報告書類でトップのあいさつ文があれば、ほとんどが漢語や難しい言葉のオンパレード。
あるいは手あかのついた言葉がたくさん(「~してまいる所存であります。」「今後のわが社の発展へのお力添えを何卒お願い申し上げます」etcetc)。
だから、読み手のプレーヤーは増えない。
作る側がマニアックな数字に強い人間ばかりを読み手として想定しているとしかみえないから。
私のまわりでも「●●社の統合報告書を熟読してます」「目を通してます」なんていう会社員、起業家、学生は皆無です。
読んでるのはマニアックに研究している方たちか、他社で同じように報告書を作る担当になっている人たちくらい。
●英語の翻訳者から見た文言。翻訳者の視点から。
いち翻訳者としても、文言には思うことがたくさんあります。長年、企業の英訳(日本語から英語に翻訳)に携わってきました。
そのなかで、企業は違えど何度も何度も出現する言葉は共通しています。
★提案型営業
★顧客第一主義
★全社一丸となって
★誠実
★お客様に向き合う
★展開
★お客様の気持ちに寄り添う
まだまだ書ききれませんが、これらに共通することは「英訳しづらい」。笑
まず第一に、こうした同じ文言がとにかく何度も何度も出てくるのです。
ある企業様には「同じ英語が何度も使われていておかしい」と言われたことがあります。原文の日本語原稿が同じ文言を何度も使っておられるのですからしょうがありません、と言いそうになりました。「翻訳」なのですから意訳したり勝手に違う文章を作るわけにはいきません。
(余談ですが、「スペルが間違っている」なんて指摘を受けたこともあります。相手の覚え間違いです。「judge」という英単語があるので「judgement」だと思っておられたようです。真ん中に[e」はありませんよ。「judgment」が正しいスペルです。なんでも言やぁいいってもんじゃぁないんだ。笑&怒)
15年以上に渡る「英語の翻訳者」として翻訳者が非常に苦労させられる文言は以下のとおりです。
1) 同じ文言が何度も何度も出現する。
2) 言い回しが抽象的。
3) 漢字を多用して言いたいことを凝縮させようとする。
このブログでも以前取り上げたことがありますが、ご依頼に慣れておられないようで、よくお話を伺うごとに翻訳ではなく完全な「英文ライティング」を実はご希望だった、なんていうことを発見することもあります。
報告書づくりに携わることに面白さを見出せなくなってから久しい。
AIの技術が向上するにつれて、報告書作りもおそらくAIがかなりの割合で関わってくることとなります。
人間以上に正確かつ詳細にわたる数値化をしてくれるからです。
組織という企業の人間が報告書にかかわる利点はあるのかどうか。
「ある」と明言するかたがおられるのであれば、日本の企業はその理由をしっかりと認識する必要があると思います。
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