今日の記事では、日本文化や日本人のコミュニケーションを語る比喩としての「たこつぼ」をとりあげています。以前書いた、丸山真男氏の「たこつぼ型vsささら型」については、下のサイトからごらんいただけます。
●日本のオピニオンリーダーはそれぞれ、「たこつぼ」を持っている。故・丸山真男氏からインスピレーションを得て書いてみます。
以前もこのブログで私は書きましたが、すでに故人となられている東大名誉教授で思想家としても有名だった政治学者の丸山真男先生はかつて、日本文化と西洋文化の違いとして「たこつぼ型vsささら型」という表現を使われました。
私はここからインスピレーションを得て、日本人のコミュニケーションスタイルも「たこつぼ」のようであり、自分のテリトリーにまわりを取り込んで、そのたこつぼ内で「A!」といっせいに連呼しあう、と書きました。
ほかの国・地域が「私はAだけど、あなたはBだったわよね」という会話が成り立つ場合が多いのと比べて。
(私やまわりはちがいますが、すごく卑近な例としてレストランでのメニュを選ぶ際に、日本ではみんなで「A」ということが多いらしい、とか)
今日は「たこつぼ」という比喩について書いていきます。
私もこれまでは、目上の人や位が上のひとの集まりや勉強会には好んで参加していたものです。しかしながら、年齢を重ねるごとにそれがしんどくなりました(大笑)。
なんでかなぁ、と考えてみると、それら日本人のかたによって主催された会がやっぱり「たこつぼ」だと感じたからです。
その主催者のかたが言いたいことを参加者が聞く。これがまず基本としてあります。
「あ、それは私がすでにやってます/しってます」なんてことは、口をはさむことができない。
意見が言えるのは、その主催者のかたが指名した人だけ。それ以外の人たちはひたすら、「A」に近い意見を言っていくことが求められる。
たとえば、私の経験でこんなことがありました。
ある外資系企業のアニュアルレポートを勉強していると、その主催者のかたが、「この中に、“Confessions of a Reporting Nerd”と書いてあります。nerdの意味が英語の辞書にも載ってない。だから時間をかけて調べてみました。いやあ、面白い意味だと分かった」
私自身はもちろん、プロの翻訳者ですので、「reporting nerd」なんて聞くと「ああ、それだけこの企業はじっくり、アニュアルレポートに取り組んでるんだわぁ。しかも”Confessions”だなんて。
カトリック系の国かしら。
おもしろく表現したかったんだわぁ。粋な表現だわぁ」
と感じたのですが、その主催者のかたは私ではなく、同じく出席していた通訳者のかたに話を振ったのです。
「通訳者の●●さん、この意味、分かりますか?nerdって」
nerdはスラングといえばスラングです。でもそれほどレアな言葉でもない。英語圏のテレビドラマでも見てればたびたび出てくる言葉。
だから、私でも知っている。笑 ネイティブでもない私でも。
それでも、その通訳者のかたはご存じないようでした。指名されて、きょとんとしている。国際学会のようなアカデミックなものを通訳されているからでしょう。
このおふたかたのやりとりのあいだの私のフラストレーション、お分かりいただけます?笑
ものすごいストレス。プロとして。
あー、言いたい言いたい!
だって、知ってるもの~私。
Nerdなんて、そんなに珍しい言葉じゃないですよ~
しかも、「Confessions」とあるので、 おそらくカトリック教徒の多い国の企業なんじゃないでしょうか、宗教色の強い「Confessions」という言葉と「nerd」なんて俗世間のスラングを対比させて言葉遊び、してるんですよ~ このアニュアルレポートの制作者たちは!!! (はぁはぁはぁ)
主催者の中年男性は、「Confessions of a reporting nerd」というキャッチが「宗教vs俗世間の対比という言葉遊び」までは気づいておられませんでした。
(私にきいていただければそこまでお話できたのですが、彼の眼中にはその通訳者のかたしかないようでした)
この言葉遊びを他にやった英語圏ネイティブを私は知っています。
Madonnaです。
彼女はいまから10年以上もまえ、「Hung up」をシングルカットした際、「Confessions on a dance floor」と題した世界ツアーを慣行させています。
カトリック系の家庭に生まれて「confessions(懺悔をすること)」を小さいときから言葉として、宗教上の慣習として、身近に感じていたマドンナが、さらに自身からは切っても切り離せない「dance floor」というサブカルのメッカのような場を言葉として対比させることで、ビジュアルとしての強烈なインパクトや面白さを表現していました。
ツアーのネーミングを聞いたとき、マドンナらしい、と私はハっとしたものです。
だから、「Confessions of a reporting nerd」とアニュアルレポートの製作者たちがキャッチコピーつけているのであれば、ここから瞬時に描かれるビジュアルは、
「かちっとしたビジネススーツを着た男女が、カトリック教会の懺悔室でカラーを首につけた神父さんにむかってなにやら告白している姿」。
「私たちはこうして、企業報告することにコリに凝ってるオタク集団なんです」
と両手を組み合わせてこうべを垂れながら。
でも、私にはそんなことを説明する余地と情報のシェアをさせてもらえる機会は与えられませんでした。私がこの主催者のかたの「たこつぼ」から脱することにしたのはそれからほどなくしてです。
「言えばよかっただけじゃん」と言われそうですが、主催者は私ではありません。その会の主催者はその中年男性であり、そこでは彼の言うことをみんなで「A!」と声をそろえて指示することが求められている。
意見が言えるのは、その人が指名した人。それが、「たこつぼ」ということです。
●理由一考。アカデミックなものを排除して。
「たこつぼ型」となったアカデミックな理由はもちろん、丸山先生をはじめ、学者先生方が論文などをかかれてますので、ブロガー小山がそれ以外について思うことを書いてみます。
おそらく、「組織」というものがとても強力なんだと思います。「組織」なんてきくと、会社のような物理的なものを思い浮かべるかもしれないですが、日本では大小の組織がまるでマトリュシカのように入り子細工になっている。
若い子は「け、会社なんてかんけーね」とかいいそうですが、若い子の組織なんてむちゃくちゃしばり、きつくないですか?大きい組織は学校とか部活、小さい組織はクラスとかいつもつるんでる(ように見える)「うちら」。
「うちら」のしばりに反したことするとハブられる。
以前このブログで書きましたが、未成年と思しきアルバイトの子の接客をカフェやコンビニで見てると、満面の笑顔(必死なくらい)を自然に向けるのは「バイト仲間」という組織、つまり「うちら」。
まったく見ず知らずの客がレジに来ても不愛想なのにさ。大笑 「しばり、きつそうだな。『うちら』の組織は」と思いながら私などはいつも眺めてます。
組織が日本で強力なのは、効率性を求めるためだったり、規律(order)を求めるためだったり。それが高度経済成長期には飛躍的な経済成長に結びついたのも事実ですし。日本の社会的規律の高さについては、私が米国大学へ留学したときにもある教授が触れていましたね。日本にずっと住んでるかたは気づかないかもしれませんが。
組織(群れ)自体は文化に関係なく、動物の世界にも存在します。だから、他国他地域の人にもあるにはあるけれど、日本はそれが強力。
どうですか?ご自身の身近な世界にも、「たこつぼ」は存在していませんか?
●水中を漂ってみる。人のたこつぼに入らずとも。解放感を感じながら。
私はブログに助けられました。20年近くまえにネットの世界に飛び込んで「web2.0」やmixiをはじめとしたSNSの走りも見てきた私は、当時から気が向いたときにブログは書いていたのですが、いまとはくらべものにもならない「なんちゃってブログ」。笑
投稿数も散発です。
オープンソースであるWordPressにも助けられた (Thanks guys!!)。
表現者としての道を20代のころから探しつつ、人のたこつぼにさんざん取り込まれて、その窮屈さにしだいに息苦しさをかんじていたのです。
「人のたこつぼではなく、海中・水中を漂ってもいい、自由に自分の表現を追求してみよう。読んでくださるかたにすこしでも有益な情報が与えられるように。すこしでもクスッとした面白さをかんじていただけるように」
これが、いま私が日々更新する原動力です。
それぞれが強烈な自己世界を有していて、ときには激しく(子供じみているほどに?)議論を戦わせる欧米式の「ささら型」コミュニケーションでは、人の「たこつぼ」に取り込まれることが少ない分、孤独を感じたり、いわゆる「自己責任」なるものをとらなければならないときもあるでしょう。
そこまで極端でなくてもいい。
どの派閥にも属さない。
どの会社にも属さない。
どの勉強会にも属さない。
どの学会にも属さない
自分の気持ちや感覚に忠実に、
水中を漂ってみる。
人をわざわざ傷つける表現(批判も含めて)も考え物ですが、ネットの良い点は、ひとりひとりが表現者となって「インターネット」という海の中をくらげのごとくに自由に漂える点だと私は思っています。
英語をはじめとする外国語ができれば、それを海外にも発信できる。
日本の「たこつぼ」に疲れているかたがたにはネットでまったりと漂うこともお勧めしたいですね。
ゆるーく、どこかにブイをうかべておきながら。
“【政治学者・丸山真男氏からインスピレーション】人の「たこつぼ」に取り込まれるより、「水中を漂う」ほうがまだおもしろいかも。” への4件の返信
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