今日の記事では、
私が米国大学に留学していたときに
映画関連のクラスで鑑賞した
フランスの詩人・映画監督のジャン・コクトーの
「オルフェ」について書きます。
●コクトーの「オルフェ」(Orphee)
●あらすじ
●オルフェウス伝説を下敷きにした物語
●「振り返ってはいけない」という命令へ抗う古来からの人間心理
●おまけ。「Sting’s PV “We’ll be together」
●コクトーの「オルフェ」(Orphee)
はじめてみたのは、米国大学でFilming関係のクラスを受講した際です。
古い白黒の映画でしたが、ギリシャ神話の「オルフェウス伝説」を原題に置き換えた発想と、シュールレアリスムな画面のなかで随所にちりばめられたコクトーのイマジネーションの素晴らしさにしばし魅入った作品です。
製作は1951年。
出演は、コクトー作品の常連のJean Marais、Maria Casares、Marie Deaなど。
白黒映画の中だからこそ、白いカーテンや白い衣装、「死の女王」の黒髪や黒い衣裳、黒光りしたロールスロイスの艶、がとても濃淡鮮やかに幻想的に、その色と存在感を放っています。
黒澤明監督の「羅生門(Rashomon)」が1950年製作、とほぼ同時代の作品。
「羅生門」は私の大好きな映画の一本ですが、そういえば羅生門も白黒の画面の中で、監督らによって緻密に計算された光と影のコントラストが強烈にきらめいています。
●あらすじ
大まかに書くと、妻ノユリディスと仲睦まじくくらしていたジャンマレー演じるオルフェは、ある日出会った「死の女王」に魅せられ、鏡の向こうに存在する、死の国へ出入りするようになります。
そして、死の国で生きることと生の国で生きて妻ともとの暮らしをすることとの板挟みとなり葛藤します。
米国大学で授業を受けたときは、担当教授が「Twisted story」と表現したところです。
ギリシャ神話では、死んだ妻を探しに、死の国へオルフェが旅に出る、というどこの国・地域にも存在するシンプルな話になっているからです。
「妻にあうときは、絶対に、後ろを振り返ってはならない」
という条件を付けられて。
CGもない時代に、コクトーのイマジネーションにはいつも感動します。
この映画のまえに、コクトーの「美女と野獣」(ディズニー版からさかのぼること約50年前・・・!)も観たからです。
これを「ちゃちぃ」ととるのか、それとも人のイマジネーションのすごさとして感動するのか。
こういうコクトーの工夫とイマジネーションはいたるところにあります。
表現者やアート関係者、映画製作者、Web製作・デザイナーなどのかたは、後者、つまりイマジネーションのすごさに感動してほしいですね。
●オルフェウス伝説を下敷きにした物語
コクトーの「オルフェ」以外にも有名な映画としては「黒いオルフェ(Black Orpheus)」が挙げられます。
テーマ曲も映画音楽の定番としてよく演奏されます。
タイトルは知らなくとも、カフェなどで耳にしたことがある人も多いんじゃないかな。
その結末が分かるだけにアントニオ・カルロス・ジョビンの物悲しいマイナー調の曲がしんみりとした気持ちに相乗効果を与えます。
そのほかに私が知っているところでは、宝塚で上演された、「螺旋のオルフェ」。
私自身は「オルフェウス伝説」のことを以前から知っていたので、オルフェウス伝説を二重、三重にひねらせて織り込んだ、この宝塚オリジナル作品の物語とメッセージ性に思わずうなりました。
退団する前の檀れいさんが娘役で二役されていて、その美しさと演技にもしびれましたね。
●「振り返ってはいけない」という命令へ抗う古来からの人間心理
ギリシャ神話だけではなく、旧約聖書や日本の神話にも、「振り返ってはいけない」という命令に抗う人間の話がありますよね。
崇高な存在の忠告を守ることができず、振り返ったばかりに塩の柱になってしまったり、腐敗したゾンビになってしまったり。
昔から人間って、「●●してはいけない!」と言われれば言われるほど、その禁止された●●をしてみたくなっちゃうもの、なんだと思います。笑
たとえば、こんな話。
「決して覗かないでください」
と言われて、言われるほどに誘惑を感じてしまい、部屋をこっそり覗いてしまった夫は、自分の妻が実は、昔、自分が助けた「鶴」であり、鶴は命を救ってくれた恩返しに毎晩、夫のために自分の体からせっせと羽をもぎとってツートンツートン、と機織りしては夫が売りさばける織物を創っていた。
そう、そうです。
「鶴の恩返し」です!
やっぱり、見ちゃうんですよ。
見ないでねーって言われてるのに。
見ちゃった。
しょーもない。
ねぇ。笑
「決してひとりでは観ないでください」
なんてオカルト映画のキャッチコピーが流行った時期もありました。
そんなこと言われれば言われるほど、一人で観に行きたくなっちゃうもんなんですよ。
私らニンゲン。
●おまけ。「Sting’s PV “We’ll be together」
StingのPV、”We’ll be together”はこのコクトーの映画「オルフェ」へのオマージュという意味もあるんだと思います。
日本でStingのPVを観た際、「あれ?」と思いました。
パロディというのかコクトーの映画からそのまま抜き出してきたようなシーンがあったからです。
たとえば、Stingが鏡のまえで手を鏡に触れると、まるで向こうにも自分がいて鏡ではなく向こうに映る自分と指を重ねたかのように錯覚して驚くシーン。
鏡の真正面に立っているので、私が受講した米国大学の授業では、「どうやって撮影してるんだろう??」と感嘆の声を上げた女子学生がいました。
私も驚きました。
鏡の前での真正面からの撮影だと、後ろに撮影隊が映っているはずですよね。
本来であれば。
でもおそらく、これは「鏡」ではなく、透明な板の向こう側にSting(あるいはジャンマレー)が立っていて、こちら側に同じシャツを着たエキストラのような人がいて、手元だけをカメラで撮影しながらStingと同じ速度で近づいていって板を挟むかたちでお互い、手を重ねる、という手法じゃないかな、と思います。
PoliceのLead vocalとして一世を風靡するまえは、Stingが美術教師をしていたことは有名な話です。
コクトーの美意識がちりばめられた「Orphee」にきっとStingも感銘を受けたのかもしれません。
★★★★★StingのYouTuve公式PVより引用。Quoting from Sting’s official PV on YouTube★★★★★
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