【おすすめ映画】普通の人々(Ordinary People)

今日の記事では、
1980年に米国で製作され、
アカデミー作品賞や監督賞を受賞した
映画「普通の人々」について書いています。
●普通の人々
●あらすじ
●パッフェルベルのカノン
 そのほかの映画については、以下のサイトでもごらにただけます。

●「普通の人々」

俳優でありサンダンス・インスティテュート (Sundance Institute)を主催するロバート・レッドフォード (Robert Redford)がはじめてメガホンを握った作品です。

50年代60年代のアメリカ映画はハッピーエンドで終わる単純なストーリーものが主流を占めていましたが、「アメリカンニューシネマ」と日本で呼ばれる流れがあって「イージーライダー」や「タクシードライバー」など心にどこか鬱々としたものや大きな葛藤を抱える人間が主人公の映画が出てきました。

そのなかで、やはりそれぞれが葛藤を抱えながらも、タイトルどおり、ごく一般的な (ordinary=普通の)家庭を題材にした本作は、やんちゃな若者が暴れまわったり、ジャンキーが幻覚をみたり、底辺の労働者が政府の要人を暗殺する計画を立てたりする他の米国映画とはまた一味違う、地味なトーンながらも観客の心に静かに問題提起するような印象のある良作です。

原作はジュディス・ゲスト。

出演は「24-TWENTY FOUR-」ジャック・バウワー(笑)の実のお父さんである、カナダ俳優ドナルド・サザーランド(Donald Sutherland)、妻役に、米国では「メアリー・タイラー・ムーア・ショー」でお茶の間の人気者だったメアリー・タイラー・ムーア(Mary Tyler Moore)、そして本作でアカデミー助演男優賞を受賞したティモシー・ハットン(Timothy Hutton)、そのティモシー・ハットンを支える精神科医役のジャド・ハーシュ(Judd Hirsch)などです。

音楽は映画「スティング」も担当したマービン・ハムリッシュですが、バロック時代のドイツの音楽家、パッフェルベルの「カノン」(Pachelbel’s Canon in D)が本作全体で効果的に使用されています。

●あらすじ

米国の閑静な住宅街で暮らすコンラッド(ハットン)と弁護士である父と社交的な専業主婦の母。

裕福で幸せな典型的米国家庭であったコンラッドたちでしたが、数年前にコンラッドの兄バックをボートによる水難事故で亡くしてから一家の歯車はじょじょに狂い始めます。

兄亡きあと、コンラッドは馬の合わない実の母や優柔不断で威厳のない父との生活のなかで「自分をコントロールできる人間になりたい」という強い思いを抱きながら、精神的に不安定な日々を送ります。

実はコンラッドは、兄の死から数か月後に自殺未遂を起こして病院にかつぎこまれていました

(観客には、フラッシュバックの手法で中盤にその事実が明かされます)。

学校の水泳部も自分の意志で辞めてしまい、精神科医のセラピーを受け始めるコンラッド。

答えではなく、

「それはどうして」

「そのとき君はどう感じた」

「どう思った」など、穏やかにコンラッドに質問を投げかける精神科医とのやりとりによって、兄バックの死後、自分のなかに大きく生まれた「罪悪感」とはじめて、向き合うことになります。

それぞれがどこかよそよそしい態度でお互いと接しながらも、すべての基本が「家族」であり、理解しあえて当然、という米国の大前提を必死で体現しようとしているかのように見える父と母、

そしてそれをおとなしく受け入れてきた自分に、コンラッドは次第に違和感を感じます。

自分の力で自分の人生を必死に生きようとしはじめるコンラッドと、その姿に心を動かされて自分も行動を起こそうとする父、ますます相容れないものを感じはじめる気丈な母は、米国の理想の家族像を覆えすような「家族関係の解消」という瞬間へ突き進んでいくのです。

●パッフェルベルのカノン

コンラッドが所属するコーラスクラブで合唱する曲として利用されたり、映画音楽として全編に流れたり、そしてエンディングでサザーランドとハットンが抱き合うシーンでも流れたりします。

私はこの映画でこの曲を知りました。

数小節の「テーマ」と言えるモチーフが、同じコード進行の変奏によって何度も何度も現れます。

室内管弦楽版ミニマルミュージック、といった趣のある曲。

主人公であるコンラッドたち3人が、それぞれの葛藤を「主題」に感情をさまざまに変化させる様子はよく考えると、パッヘルベルのこの曲にぴったりと重なります。

最終的には全員がばらばらになるという話でありながら、それぞれが家族依存から自律するせいか、エンディングにはすがすがしさを感じたのですが、パッヘルベルの曲の雰囲気も相乗効果を与えていたのだと思います。

紅葉した落ち葉が絨毯のようにきれいに敷き詰められた森林公園のシーンの美しさにも心奪われ、観終わったあとはつい、静かに、「カノン」をハミングしてしまいます。

私はドンパチものも大好きですが、深層心理や家族の問題に静かに向きあった今作のような佳作も大好きです。

「普通の人々」、映画が心から好きな人にはぜひおすすめしたい一作です。